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第9章 訪問、三度のあの男

　それから幾日かが大過なく過ぎ次の休日が巡ってきた。相変わらず林社長からの連絡はなかった。ラボ長に聞いても『知らない』とつれない返事であった。同時に移動を言われた後輩の見習いパティシエの子も、おかんむりであった。
「酷い、酷い」と言っては、Sanaに付き纏うのでSanaは閉口していた。

　早めに帰宅したSanaはどうせ返事はないだろうと半ば諦めていたあの男からの連絡をみつけたときには胸の高鳴りを覚えた。簡単なメールで訪問の日時が並んでいて希望日を残して返信を促すものであった。Sanaは休日の午前を希望した。
　そして、あの男からの連絡が留守電にバカ丁寧に這入っていたのを聞いて思わず顔が上気した。
　休日の朝早く目覚めたSanaは掃除、洗濯など家事全般を済ませて、シャワーを浴びて身支度を整えてあの男を待った。朝9時過ぎにやってくるあの男をじりじりして待った。
　あの男は時間通りにやって来た。
　Sanaは階段をあがる気配で分かったが気が付かないふりをして座っていた。上階も下階も向かいも空き家であった。少々のことでは誰も気が付かない空中に浮いたような空間の部屋に住んでいるのであった。
　呼び鈴がなった。