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フレックスタイム
第7章 入籍と過去の女
翌日、幼稚園に見送りした時に、
顔見知りの守衛さんに、
前の妻がケンに付き纏ったり連れ去りを図ることがあるかもしれないので、そのようなことがあったら警察に通報してくださいと伝えた。

そして出社すると、
前日の急な早退と夜のスケジュールの変更を伊藤室長に詫びた。

「大変だったね?
暫く気をつけた方が良いよ」と、逆に心配された。

「でも、ピシャリと追い払ったんだってね?
流石だよ」とも言われた。


週の後半は、
夜の予定をリスケして貰い、
なるべく早く帰宅出来るように配慮して貰うことになった。



金曜の夜は、私だけ先に帰宅することになり、
阿部さんの車で送って貰い、車を降りた時だった。

梅雨時で、阿部さんが車を降りて傘を差し掛けてドアを開けてくださり、
私が車から出た処に、
突然、傘を投げ捨てるようにして私に向かって向かってくる人の姿が目に入った。

「えっ?」と思いながら、
ゆっくり見ると、あの女性だった。

手に光る何かを持っているのがスローモーションのように見えた。

私は咄嗟に持っていたバーキンで防ぐようにすると、
カッターの刃が折れて飛ぶのが見えた気がした。

阿部さんが歳の割には機敏な動きで手首の辺りを掴んで、
抑え込む。

近くを通り掛かった女性が悲鳴を上げたので、
「警察呼んで!110番!!」と声を掛けた。
阿部さんの手に血がついているのに気づいて、
「その前に119番掛けて!早くっ!!」と言うが、
パニックを起こしてしまっている。

私は自分の携帯を出して、救急車の出動を依頼し、
その後、警察に電話をした。

そして、流血してるのは、
私の方だったということに気づいて、
軽い貧血を起こして倒れてしまった。


「百合さん!
大丈夫ですか?
百合さん!!」

遠くからサイレンが聴こえて、
何か訊かれているような気がして目が覚めた。

ストレッチャーに乗せられていた。

救急隊員が、
「名前を言えますか?生年月日は?」と訊いていた。

「佐…松田百合です。
生年月日は…」と言おうとすると、
サイレンの音で気付いて家の中からお母様と古川さんが出て来て、
悲鳴を上げる。

「お母様、大丈夫ですから、
ケンを…、ケンを外に出さないでください。
またあの人が…」と言うと、
阿部さんが、
「あの女はパトカーの中だよ」と言った。



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