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蒼い月光~くの一物語~
第9章 千代の初枕(初夜)
初めての男との口づけ‥‥
しっかりと記憶に焼き付けたいのに
心が揺らぐ‥‥
それは、恐らくこの男が
朱里を成仏させぬ張本人だということと、
ついたての向こうに控えている側女の八重の存在だった。
「殿‥‥恥ずかしいのです‥‥
どうか2人っきりで‥‥」
剣山の胸に引き寄せられ、
ぶ厚い胸に頬を寄せながら小声で囁いた。
「ん?八重のことか?
案ずるな、あやつは人にして人にあらず。
ただの木偶(でく)人形だと思えばよい」
木偶人形?!
殿は、そう申されたか?
八重は、ついたての裏側で歯を食いしばって
恥辱に耐えた。
殿が幼きころより身の回りのお世話をし、
殿の褌(ふんどし)祝いをさせていただき、
内証の女になるのが夢だった。
今回、嫁を迎えるということになり、
必ずや性の手ほどきの声がかかるものと期待していたのに‥‥
『お前は初枕の日に儂(わし)の側におれ、
儂(わし)が交ぐあいの手順を間違えたり、
秘穴の位置が解らぬときは指南せよ。
女は生娘で嫁いでくるのだ、
こちらも童貞で迎え入れるのが筋と言うものじゃ』
屁理屈だ‥‥
こんな年増女に手ほどきされ
筆を下ろしとうないだけに違いない。
私が殿をお慕いしている気持ちを知っていながら、
他の女を抱くところの証人になれと申されるなんて‥‥
「あああ‥‥」
千代のか弱い声に八重は我に返った、
女がどんな顔で喘いでいるのだろうかと、
ついたてから顔を覗かせて盗み見た。
女は寝間着の前をはだけさせられて、
小ぶりな乳房を殿に舐められていた。
蚊帳の中の仄かな行灯の灯火が
中の様子を妖しく映し出していた。