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第20章 もつれるストッキング4　　　　　律子とゆかり

　12　嫉妬心…

　それはわたしの知らないもう一つの彼の姿…
　またそれにはわたしが関わっていないという意味での疎外感。

　そして、だが、どうしても心の奥底で蠢き、浮かび上がってくるのが…
　常務専属秘書の松下律子という存在感。

　しかしそんな彼女について何の確信も、いや、そもそもが怪しいと不惑に思うこと事態が不自然であるのだ…
　なぜならそれは少し前に一度だけ、電話でほんの一言会話を交わしただけであり、彼女の顔姿さえ見た事もない存在なのだから。

　それにその彼女についての唯一の情報源が越前屋さんによる…
『すっごい美人さんでぇ、甘い、いい匂いがするんですよぉ…』
　という、ある意味、脈略も何も無いそんな一方的な言葉だけ。

　だけど…

　だけど、なぜか、どうしても彼女が…

　常務専属秘書である松下律子という存在感が、わたしの心の中のより奥深い奥底で怪しく蠢いてしまっていたのである。

　そしてその彼女の存在感が…
　違和感と存在感というわたしの微かな不惑の感覚を生んでくるのだ。

　いや違う…

　本当は分かっていたのだ…

　ただ認めたくはないだけ…

　そう、そのわたしのその感覚は、総じて…

　ただのつまらない…

　嫉妬心、ヤキモチという想い、思いであるということを本当は分かっていたのだ…
　ただそれを認めたくはないということを。

　そしてそれは…
『黒い女』と呼ばれていたあの頃の蒼井美冴さんに対して…
　いや、美冴さんの本来の魅惑さと美しさに気付きいてしまい、人生で初めて抱き、感じた嫉妬心という不惑の心の揺らぎと同じであるのだという事実も、本当は分かっていたのである。

　そう、そしてその違和感と疎外感という感覚の根源には…
　まだ見た事のない常務専属秘書であり、美しく、いい匂いのする松下律子という存在がいるのだ。

　そしてこの嫉妬心…

　いや、全てはそんな嫉妬心からの不惑の揺らぎからの想い、思いなのである…