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シャイニーストッキング
第11章 絡まるストッキング5      和哉と健太
 89 五年前の時計…

「ギョーザの臭い、だ、大丈夫っすか…」
 わたしはそう囁きながら、健太の唇を受け入れた。

 すっかりわたしは健太を信頼し、信用し、そして愛していた、いや、完全に愛しているという想いを自覚していたのだ。

 ああ、健太、愛している…

 大好き…

 もうこれでわたしの心は落ち着きを取り戻し、昔の蒼井美冴という女に戻れる筈である。
 
 いや、違う…

 わたしの全ての、色々な周りの環境がすっかりと新しく変わったのだ。
 これからは、あの過去を完全に消化をし、そして嫌な思い出も飲み込んで忘れて、前に進むのである。

 それには、これからは、この健太が必ず助けてアシストしてくれる筈なのだ…

 わたしは昔の蒼井美冴に戻るのではなく、新しく生まれ変わるのだ。

 あっ…

 すると、不意に、一昨夜のあの和哉との一瞬の再会を思い出してしまったのである。

 和哉…

 突然現れた五年前のわたしの忘れ物…

 わたしの忘れ物…

 実は心の片隅で、五年前からずっと息を潜めて時計を、時間だけを刻み込んでいた、和哉との思い出…

 五年前の時計を止めなくてはいけないのか…

 だから最近、急に和哉との過去をことある毎に思い出してしまっていたのであろうか。

 佐々木ゆかり部長の課長時代に、
『黒い女』であったわたしを時折見つめてきていたあの目…
 それが和哉を連想させてきていた…

 甥っ子の康っちゃんが当時の和哉と同じ年歳、そしてファミレスでバイトするという言葉だけでまるでキーワードの如くに和哉を想い浮かべてしまっていた…

 そして『黒い女』から覚醒するきっかけの一つとなった電車内でわたしの黒ストッキング脚を、憧憬の目で見つめてきていた大学生風の男に、和哉を、重ねてしまった…

 和哉の思い出はまだ消せてはいないのだ…

 全く消化し切れていない…

 まだあの五年前から心の奥にしまった時計の時間は、ずうっと秘かに時を刻み続けているのだ。

 そうなのか、そうだ…

 あのファミレスに行って、和哉に逢って、五年前の時計を止めなくてはいけない。

 じゃないと完全に新しく生まれ変われないのかもしれない…

 過去を完全に消化し切れないかもしれない…

 そう急に、胸がザワザワと騒めいてきていたのだ。





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