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空の記憶~あなたと私と彼、それから~
第8章 第三話【波の音】 予感 
 出世にもおよそ欲のない彼は二十九歳になって漸く講師から助教授になった。有り体に言えば、遅すぎる昇格である。それでも、講師時代と違い、人並みに服装にも気を配るようになったのは良人にとっては良い傾向だと、幸はひそかに歓んでいた。
 私学の大学の助教授の俸給では、けして贅沢はできない。が、浩三は大学に勤務するかたわら、自宅で翻訳の仕事もこなしている。浩三の専門は英語だ。特にシェークスピアの作品を中心に手がけている。最近は大手の出版社からの仕事の依頼も増えてきた。
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