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欲しいのは愛だけ
第10章 新たな暮らし
ハロウィンが終わって急激に寒さが増してきた。
航平さんの仕事は更に忙しくなっているだけでなく、
お酒の席も増えているようだった。
朝と夜にキスはしてくれるけど、
それ以上、私に触れてくれることも殆どなくて、
でもそのことを口にしたら、
何かが崩れ落ちてしまいそうで訊けないままの日が続いた。
ある夜、かなり遅い時間にインターホンが鳴って出ると、
航平さんが若い女性に支えられるようにして帰宅した。
私は慌ててエントランスまで迎えに出ると、
その女性は銀座のクラブで働いていると言いながら、
「飲み過ぎてしまわれていたので…」とニッコリと笑われて角が丸くなっている小さな名刺を出された。
最初の結婚で勝ち誇った顔をして夫を奪っていった女性と重なって見えてしまって、眩暈に襲われそうになりながら、
「大変ご迷惑をお掛け致しました」と頭を下げて、
一緒に航平さんの大きな身体を支えながらエレベーターに乗って部屋に戻った。
「少し、お待ちいただけますか?」と言って、
航平さんを寝室のベッドに寝かせてから玄関に引き返す。
「お茶でも?」と言うと、
「お店に戻りますので…」と断られたので、
3万円分の新券をきっちり三つ折りにして入れたポチ袋を渡して、
「こちら、お車代ですので。
本当にありがとうございました」と言って、
ミンクのロングコートを着た後ろ姿を見送った。
玄関に甘ったるい香りが残った。
寝室に戻って航平さんのスーツを脱がせていって、
ワイシャツを見ると口紅がついていた。
さっきの女性のつけていた色だというのはすぐに判った。
ディオールの甘い香水の移り香もある。
私は吐き気に襲われてしまって、
慌ててお手洗いに駆け込んで嘔吐した。
別に悪阻ではない。
だって、してないもの。
またなの?
…そんなことはないはず。
でも?
私はうがいをしてから歯磨きをして、
顔を洗ってゆっくりタオルで吹いた。
酷い顔をしている。
きちんとお化粧をしたあの女性に比べて、
すっぴんな上に暗い顔。
寝室に戻ると、航平さんは軽い鼾を掻きながらすっかり眠ってしまっている。
スーツをハンガーに掛けて、軽くブラシを掛ける。
ワイシャツは、少し考えてからゴミ箱に捨てた。
やっぱりきちんと話をしなくては…。
そう思いながら、
その日はソファで眠った。
航平さんの仕事は更に忙しくなっているだけでなく、
お酒の席も増えているようだった。
朝と夜にキスはしてくれるけど、
それ以上、私に触れてくれることも殆どなくて、
でもそのことを口にしたら、
何かが崩れ落ちてしまいそうで訊けないままの日が続いた。
ある夜、かなり遅い時間にインターホンが鳴って出ると、
航平さんが若い女性に支えられるようにして帰宅した。
私は慌ててエントランスまで迎えに出ると、
その女性は銀座のクラブで働いていると言いながら、
「飲み過ぎてしまわれていたので…」とニッコリと笑われて角が丸くなっている小さな名刺を出された。
最初の結婚で勝ち誇った顔をして夫を奪っていった女性と重なって見えてしまって、眩暈に襲われそうになりながら、
「大変ご迷惑をお掛け致しました」と頭を下げて、
一緒に航平さんの大きな身体を支えながらエレベーターに乗って部屋に戻った。
「少し、お待ちいただけますか?」と言って、
航平さんを寝室のベッドに寝かせてから玄関に引き返す。
「お茶でも?」と言うと、
「お店に戻りますので…」と断られたので、
3万円分の新券をきっちり三つ折りにして入れたポチ袋を渡して、
「こちら、お車代ですので。
本当にありがとうございました」と言って、
ミンクのロングコートを着た後ろ姿を見送った。
玄関に甘ったるい香りが残った。
寝室に戻って航平さんのスーツを脱がせていって、
ワイシャツを見ると口紅がついていた。
さっきの女性のつけていた色だというのはすぐに判った。
ディオールの甘い香水の移り香もある。
私は吐き気に襲われてしまって、
慌ててお手洗いに駆け込んで嘔吐した。
別に悪阻ではない。
だって、してないもの。
またなの?
…そんなことはないはず。
でも?
私はうがいをしてから歯磨きをして、
顔を洗ってゆっくりタオルで吹いた。
酷い顔をしている。
きちんとお化粧をしたあの女性に比べて、
すっぴんな上に暗い顔。
寝室に戻ると、航平さんは軽い鼾を掻きながらすっかり眠ってしまっている。
スーツをハンガーに掛けて、軽くブラシを掛ける。
ワイシャツは、少し考えてからゴミ箱に捨てた。
やっぱりきちんと話をしなくては…。
そう思いながら、
その日はソファで眠った。