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ナカまで愛でてトロトロに溶かして
第2章 【それぞれの葛藤】
「ちょっと……グロスついちゃいましたよ」とハンカチで拭う。
「一番最初に味見出来るの、俺の特権だな」
「味見って……」
笑って言うと腰に手を回して密着してくる。
「マジで綺麗だよ、惚れ直した」
「え、鍵山さん、私に惚れてたんですか?初耳…」
「ん?じゃ、何だ?身体だけの関係だったって事?」
「外でその話はやめてください」
「まだ2人きりだろ?」
「口、減りませんね?」
「お互いに」
目を見合わせて笑い合う。
そうでしょ?大人の関係ってやつ。
まだ喰われる訳にはいかないの。
あの時は抗えなかったけど、あとに引いちゃ駄目なんだって思ってる。
本気で恋愛するなんて私には無理。
もう懲り懲りな部分は確かにある。
でも性欲なんて収まるはずないから絡み合うだけで。
その相手が鍵山さんとなるとまた別の話…的な。
ううん、今は物珍しさに喰い付いてるだけ。
あの夜は私も可怪しかった。
いつもの自分じゃなかった。
そう言い訳を並べて正当化するしかなかったの。
だって担当者だよ!?
仕事するんだよ!?
公私混同も甚だしいでしょ。
私はそこまでのし上がれてない。
お前の実力で此処まで来たんだって言われても何ひとつピンと来ないの。
たかがデビュー作が売れて人目についてまだフワフワしたところに居るだけ。
今の作品もそれなりに読者反応はあるけど何処か別の世界に居るみたい。
そんな私がこんな着飾ってパーティーなんかに出席して本当に良いのだろうか。
勘違いしてるって思われたら嫌だな。
「おい、そっちに乗るのか?」
助手席ではなく後部座席のドアを開けていた。
変に噂されるのも良くないなと判断したのだ。
こうして色々時間を割いてこっちに来てくれているけど、それなりに上の立場な人だって事くらいは知ってるから。
「今日はこっちで」と乗り込んだ。
バックミラー越しに合う視線も私から逸した。
静かに走り出す車内で音楽もラジオもなかったけど窓の景色を眺めているだけで充分なドライブデートでした。