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第1章 港の見える丘

『アーアーアー・・・・。』

高く澄んだ声が響いていた。

『アーアー・・・メェー・・エエー・・・・ン・・・。』

天使が三人、賛美歌を口ずさみながら歩いている。

斜めの光りが草木を照らし、少女達の姿を幻想的に浮かび上がらせる。

『主のぉ・・・みまなにぃ・・・・・。』

少し低く目のしっかりした声が続いていく。

振り返った人は、時折笑顔を零しながら美しい声でリードする。

遠山舞（まい）はその気品ある足取りを尊敬と憧れの眼差しで追っていた。

艶やかな髪が風になびいて、女神の如く見える。

『御霊はぁ・・・・眠るぅ・・・・。』

そして、四つの声がそれぞれ違う音階を辿りながら重なっていった。

『アーアー・・・メェーン・・・。』

澄み切った歌声が何時までも続いていく。

永遠の幸せを掴んだかのように、三人の天使達とその人は互いの顔を見つめあいながら和音の響きを楽しんでいる。

不意に鳴った汽笛の音が、歌声を止めた。

「あっ、海だぁ・・・・。」
舞は弾けるような声を出すと、その方角を示しながら笑顔を見せた。

ふっくらした頬から白い八重歯が覗いている。

真っ直ぐに伸びた腕の先にある小さな指が１５歳の瑞々しさを物語っていた。

『わぁっー・・・・・。』

二人の少女も駆け寄ると歓声をあげた。

「本当・・・凄く、綺麗・・・。」

朝倉美紀が感慨深気に呟いた。

銀縁のメガネがキラリと光る。

草原を囲む森が青空を複雑に切り取り、木々の隙間から覗かせた海は遠くの水平線で空と交わり霞んでいる。

小さなオモチャのような貨物船が、もう一度汽笛を鳴らしながら進んでいった。