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あなたが消えない
第15章 初出勤日の夜
口唇が離れた時、翔は微笑んだ。

「翼、愛してる」

「うん。私も愛してる」

「おまえと俺は永遠だよ」

「うん」

「俺の永の字をおまえにあげる。だから、おまえの遠の字、俺にくれるか?」

何だか、やっぱり変だ。

変な言葉を言ってる、さっきから。

意味が無いような、有るような。

「うん、いいよ。交換ね」

私の手を両手で覆うように、そっと握る翔。

「永の字は、ずっとって意味だからな」

「うん、ずっと翔を愛していくよ。…じゃあ、私の遠の字は…」

「そうだな…、遠くに居ても…?」

「やだな、下の階に住んでて何を言ってんの?」

「あぁ、そうだよな。そうだ、俺はいつでも、おまえの真下に住んでるから、安心してろ」

「うん」

身体が、さすがに翔の体温だけでは耐えられなくて震えてきた。

「今夜は抱いてやれなくて、ごめんな?明日も仕事、頑張れよ。俺ももう行くわ」

「明日も仕事頑張る。ごめんね、私こそ。だだっ子みたいな事して」

「いいよ、嬉しかったから」

「私が素直に甘えられるのは翔だけだから。私の全てを知っていて欲しいのは翔だけだから。どうしても、真っ先に翔に伝えたかった。ありがとう。って伝えたかった」

それを、あなたに伝えなければ後悔しそうで。

「翼っ…」

「翔っ…」

同じタイミングで強く、抱き締め合った。

「こんなに震えてる。もう、戻れ」

そんな翔も震えていた。

「うん」

差し出された翔の手で、私は立ち上がり、もう一度、もう一度、

「永遠にあなただけを愛してる」

「永遠に愛してるよ、翼」

言葉と共にキスして、

「じゃあな」

「うん、おやすみ」

「あぁ、おやすみ」

手を振り、階段を降りて行く翔に私はゆっくりと部屋に入り、玄関の扉を閉めた。
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