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あなたが消えない
第5章 沈んでいく
何あの人、変。

だなんて言って、偶然駅でバッタリ永津さんと会ってしまい、また車の助手席に乗っている。

「あの、本当にすいません」

「いいんですよ。帰る場所は同じなんだから」

って、言われてもね。

「あの、私こんな親切にされたら、何かお返ししなきゃ…」

「お返し?そんなものは要りませんよ」

何かくれって、図々しく言われるのかと思いきや、要らないのか。

「永津さん、こないだの夜の事ですけど…」

「あぁ、もしかして気が付いたんですね?キスマークでしょ?心配しなくても大丈夫ですよ。すぐ消えますから」

淡々と言っているが、やっぱり普通じゃない。

「永津さんって、そういう事を誰にでもするんですか?」

「ハハハッ、まさか。僕の評判は聞いてるでしょ?無愛想で毒舌。誰にでもだなんて、ひどいなぁ」

「じゃあ、何故です?」

私は思いきって聞き返した。

「さぁ、何故でしょうね」

車を止めて、私の顔を永津さんは覗き込んで見つめる。

また私は何もそれ以上、言えなくなった。

「着きましたよ」

あっという間にアパートに着いていた。

「今日はありがとうございます」

今日も訳が分からないまま。

丸め込まれたような気持ち。

「遠山さん、またね」

名前を改めて呼ばれて、ドキッとした。

「はっ…はい」

またねって…、また会う気か?

私はアパートの階段を足早で上がって、部屋のソファーに崩れ落ちた。

あの人の言葉の一つ一つが、いちいち気になる。

沈みそうで怖い。
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