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あなたが消えない
第13章 あなたの全てが欲しいのに
「アハハッ!(笑)…クソッ!…ハハハッ!(笑)」

翔の高い笑い声。

いつか聞いた、奥さんへと話す電話越しでの高い笑い声。

私は夢中で湯を引っ掛ける。

「今、飲んじまったじゃねぇか…ハハハッ!!(笑)」

私にも、そんな笑い声してくれるんだね。

いつも無愛想で、いつもイヤミを言って、いつも相手を試すような。

そんな感じの悪いあなたは。

本当は違うのだと知った。

知った後で、あなたは奥さんと子どもを101号室に迎え入れる。

「翼っ、翼っ…ワッハハ!(笑)」

私の名を呼んでも。

良き旦那様、良き父親として、私の下の階に、素知らぬ顔をして住むのでしょ?

白々しく、私に会ったら挨拶をして。

図々しく、私が挨拶して返す。

あなたの隣に、奥さんと子どもがいて。

私が返すのでしょ。

…………つらい。

湯を引っ掛け合いながら、私はビシャビシャの顔に涙を浮かべては流していた。

翔、私は。

あなたと居る時間が、一番幸せなのに。

あなたに出逢わなければ、私はあなたの奥さんのように、何もなく平穏な時間を過ごしていたのかも知れない。

何も変化のない、つまらない日々を送っていたのかも知れない。

私の生活を変えたのは。

私の心を動かしたのは。

紛れもなく、翔。

あなたなんだよ。

あなたを愛すように、仕向けたのは。

紛れもなく、翔。

あなたなんだよ。
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