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近くて遠い
第15章 芽生え
───────…


「真希様!本当にこれはすごいことなんですよ!」


「普通のことじゃない…」

興奮する愛花ちゃんに少し呆れ気味で答えると、愛花はクリクリとしたかわいい目を大きく見開いた。


「真希様分かってないわ!私半年ここで働いてますけどご主人様が『おはよう』だなんて言ったの今日が初めてです!」


「だからそれが異常なんだって…」


おはようって言っただけでこんなにビッグニュースになるなんて、今までどんだけ冷たく扱ってたんだか…

愛花ちゃんは憐れむ私には全く気付かず、ずっとあたふたとしていた。


「他の先輩なんか、さっきご主人様、ぶつかってしまってクビを覚悟したら、『すまん』って言われたって泣いてましたよっ!?」


「えっ…」


泣いてた…?

そんなにそれって大事件なの?

ていうか…ぶつかっただけでクビって……


愛花ちゃんは、騒ぎながらもベッドメイキングをすませて私の座っていたソファーに腰を下ろした。



「やっぱ、愛の力ってすごいですねぇ…」


「は……?」


目をうっとりさせている愛花の言葉に私は首を傾げた。



「いつもイライラしてるご主人様が、あんなになっちゃうんですもん…」


愛……?


まさか…

そんな…


「どうしたんです?固まっちゃって…」


愛花ちゃんは固まる私の顔を心配そうに覗きこんだ。

「いや…、愛って言われると…なんか私と有川様が想いあってるみたいに…なっちゃうから…」



何故か自分で言って苦しくなった。


私はどうしてこんなに不安なんだろうか…


「真希様……それ、本気でおっしゃってるんですか…?」


「…………」


何か足りない…


まだ、幸せを感じてはいけないような気がする…


それは、私と有川様を繋いでいるものが、
三千万というお金だという事実から来る不安なのだろうか…
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