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近くて遠い
第26章 糸の綻び
「嫌だ、離れたくないっ…お母さんっ…」



抵抗する真希を抱えて光瑠は部屋から出た。


廊下を歩く間も真希は降ろしてと仕切りに叫んで光瑠の胸を叩いた。



「っ…」



かける言葉が見つからなかった。


何の言葉も慰めにならないのを光瑠は知っている。


光瑠は自分の寝室へと真希を運んだ。



「嫌だっ…どうしてっ…どうして、死んだりするのっ…どうしてっ!!」


自分にしがみつきながらそう叫ぶ真希に、光瑠はただ抱き締めることしか出来ない。



愛する人に先立たれる気持ちは痛いほど分かっていた。


真希の悲痛な叫びに癒えたように見えた光瑠の心の傷が思い出したように広がってゆく──



遺された者に残る、言い様のない想い。


覚悟する暇もなく消えた命──


母も父も何故この世を去らなければならなかったのか──


いくら考えても分からない。


自分を愛してくれた人



自分が愛した人が



自分を置いて


儚く散っていく辛さ──



それを乗り越えさせてくれたあの笑顔さえも


光瑠の元から消えていった。


真希の悲しみの声が

光瑠の悲しみを蘇らせて

狂わせる…




「悠月っ…」



光瑠はそう呟きながら、

真希を抱き締め

頬に静かに涙を流していた。




ようやく真希が泣き疲れて眠った頃─────…



光瑠はフラフラとそこから立ち上がって自分の書斎へと向かった。



半分意識があるような、ないような…


会社に戻らなきゃいけないと、頭も隅でそう思っているのは確かだった。



扉開けて、息をつくと、机の鍵を開けて一枚の写真を取り出した。


変わらぬ笑顔を見せる悠月の写真をぼんやりと眺める。


真希の母の死で、光瑠はまた壊れそうになっていた。


真希を慰められるほど光瑠は強くなかった。



疲れた顔にス──っと涙が筋を作る。


人の死に慣れることはない。



「会社に行かなければ…」



光瑠は恍惚の中、その写真を机の上に置いて、
また覚束ない足取りで会社に向かった。

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