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近くて遠い
第33章 破壊
────────…

社長室から響く怒鳴り声。

それに社員は身を震わせて、ひたすら自分の仕事に打ち込む。


今週に入ってもう何人がやめただろうか、誰にも検討がつかない。

パリから帰ってきた社長は商談をうまくこなしたはずなのに、"不機嫌"などと言った容易い言葉では表現できないほど変わり果ててしまった。



顔色悪く、殺気だった眼は異常だ。



皆が社長を恐れ、なるべく関わらないように怯えながら、毎日を送る。


何があったのか…秘書として最も近い位置にいる酒田でさえもそれは分からなかった。



だが…パタリと要が会社に来なくなった事と真希が有川邸を出ていったという噂から何となく推測がついた。



あれほど、光瑠をおおらかに柔らかくさせた真希は光瑠をひどく荒れさせもした。



あそこまで光瑠が執心し、大事に想っていたのだから、それは当たり前の事だと酒田は思う。



しかし酒田には真希も要もそんな容易く不貞を働くような人柄には思えなかった。




人は分からぬものである。


恋愛というものは
何もかも見えなくさせてしまうのかもしれない。





酒田は深く溜め息をつきながら、今日も理不尽に社員に当たり散らす光瑠の対応に追われていた。

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