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近くて遠い
第33章 破壊
「何の用だっ!!」


吐き捨てた言葉に渡辺が震える。



「契約のっ…内容が、当初話していたものと違っているのでっ…そ、それを確認しにっ…」


イライラする…どいつもこいつも…



「知らん!帰れっ…!俺は今機嫌が──」



「いっ…一部の部門のっ始業からの日本酒部門の権限だけは残して頂くと…それが条件でっ…」


渡辺は、必死に光瑠に懇願し、何度もその頭を地面につけた。


尚も抵抗し、ここまで惨めな姿を晒すその態度を見ながら、光瑠はギリッと奥歯を噛む。


「弱者が何を言っているんだ!!!お前たちに与える権限なんかない!!黙ってそこから──」



「お願い致します!!そういった立場にないのは十分承知の上です!!ですがっ!当初は了解していただいた権限なのです!」



プライドも何もない。僅かに残った白髪交じりの髪を乱して必死の形相である。


「黙れ!当初は当初はと何度も!!決めるのはこの俺だ!!」


あまりに大きな声で叫ぶので、酒田が落ち着いて下さい、と仲立ちに入る。



渡辺は曇った眼からボロボロと涙を流して光瑠の足にすがった。



「お願い致しますっ……!先代からずっと培ってきたものなのですっ…私ですべてを失うわけにはいきませんっ…
その意向を関根さんは分かったと言って一部権限を残して下さったのにっ!!なぜ今になって!」



その言葉に光瑠は目を見開いた。


関根────


お前は、ここまで崩れかかった会社にまで、救いの手を差し伸べたのか──



去ってもなお、自分の穢れを示してくる誠実な部下──



光瑠は酒田を振りきって、自分にしがみつく渡辺の胸ぐらを掴んだ。




「っ……!!そんなやつはもうここにはいない!!」



「社長っ!!」



拳を振りかざす光瑠を必死に止めようと酒田が腕を掴む。



「離せ酒田っ!」



渡辺は胸ぐらを掴まれながら、恐怖で力一杯目を瞑った。



目の前の無力な人間を光瑠は睨み付ける。



────────そうやって、あなたは乱暴に真希さんを自分のものにしようとしたんですかっ!




「……っ…!」


拳を振り上げた途端、あの日の要の言葉が頭を駆け巡った。




そうだ


俺には


金がある


権力もある



それを振りかざして、



何が悪いっ…!!
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