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近くて遠い
第36章 目覚め
届いた小包を前に三人のメイドが顔をしかめていた。



「やっぱり、愛花が持っていって。私たち、まだ掃除があるから。」



「えっ…」



拒否する間もなく先輩たちが逃げるようにして仕事場へ消えていった。


届いた小包を主人の部屋に運ばなくてはならない。



大した仕事ではないが、今それは誰もやりたくない仕事だった。



真希が去ってからの有川邸ははっきり言って、死んでいる。



来たときよりひどい…と愛花は思っていた。




仕方なく小包を掴んで愛花は主人の部屋に向かった。

真希が去ってから光瑠は休日はほとんど寝室で酒を呑んでいる。



有川商事同様、あまりの横暴さに使用人は何人もやめていった。



愛花はやめたくてもやめれない。


孤児だった愛花は16歳まで孤児院にいたが17歳になり、もうついに出なくてはいけなくなったとき、たまたま人手不足に困っていた有川邸にもらわれ、住み込みのメイドとなったのだ。



それからもう半年以上有川邸で働いている。


愛花にとって有川邸は家なのだ。




だから、皿を割ってクビになりそうになったとき、助けてくれた真希の優しさに愛花は涙した。



使用人の自分とちゃんと向き合ってくれて、『妹』とまで言ってくれた真希を心から慕っていたし、愛花も真希を『姉』のように思っていた。



寂しくなるとよく真希の部屋に行って、夜遅くまで話した日々を思い出す。



そんな虚しい生活を愛花は続けていた。




「はぁっ…」



溜め息をついた愛花はコンコン───…と恐る恐るノックをすると中から乱暴に返事が返って来た。





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