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近くて遠い
第43章 上司と部下
「で、ですが…秘書は二人もいりませんし…」


要は少し慌てて酒田を見た。


それはそうだな──と光瑠が続ける。



「ではやはり僕がここにいても…」



そう要が言いかけると、酒田が、あぁだから社長は…
と声を上げた。


それを不思議に思っていると、光瑠は酒田に向かって、そういうことだ──と答えた。



「……なんですか?」



二人の見えない話に要が首を傾げる。



「この会社は、俺に権力が集中しすぎている。」


ゆっくりと光瑠が話し始めた。


「だから、この前のように大きな仕事が重なると異常な忙しさになる…」



「…………」





話が見えぬまま、要は黙る。




「それを解消するため、今までのシステムを酒田と見直し、副社長のポストを設けることにした。」



その言葉に要は目を見開いた。

光瑠は真剣な眼差しで要に近付き肩に手を置いた。



「………関根、それをお前に頼みたい。

やってくれるか。」



「…………!!」



要は光瑠を見つめた。


ここで仕事がしたい──


本心はそうであった要は胸を弾ませた。




「いいんですかっ……」


要の問いに光瑠がフッと笑った。



「俺はお前にやってほしい…だから頼んでるんだ。

いいか悪いかはお前が決めることだ。」



「…っ……ありがとうございます……」



目に涙を溜めた要を見て、光瑠は少し驚いたあと、要の返事を聞いて微笑んだ。


色々なことがあったが、要はいつだって誠実だった。


投げ槍だった光瑠に仕事の遣り甲斐を教えたのは要だ…


それに…

真希の事だって──


自分が逆の立場だったら、要のような事は出来ないだろうと思った。


部下であるが尊敬している。

見込んだ部下を手離すつもりは、さらさらない──



光瑠は目頭を抑える要を見た。



「おい、泣いてる暇はない。プロジェクトも大詰めだ。またすぐに忙しくなる。」


光瑠に言われて、要は顔を上げた。


「頼むぞ──」


光瑠の言葉に、要は力強く頷いた。

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