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近くて遠い
第1章 雨に打たれて
「何してるんだ?」



急に背後から声がして、身体がびくんとはねあがった。


ガシッと手首を掴まれて、終わった、と思いながら声のする方を向いた。



傘をさしていてよく顔が見えない。


だけど声からして若いことは分かった。

長身で細身な身体なのに、手首を掴む力は強い。



私は黙ったまま唇を噛みしめた。



「酔っ払いか…」



道路でいびきをかく男見ながら、彼が言った。



「……」



声も出すことが出来ず、私は手首を掴まれたまま黙った。



「……君は…一体いくつなんだ?ここで何をしている?」



グッと私を引き寄せて彼は私を傘の中に入れた。




「……わ、私……」




どこから説明すればいいのだろうか。

大体、この人に説明しなくてはいけないのだろうか…。



「………泣くな…」



彼はそう言って、私を大きな胸の中にギュッとおさめて、抱き締めた。



え…?



悲しかったわけじゃない。

涙なんて、どうやって流すのかすら忘れたと思っていたのに、確かに私の頬には雨ではないものが流れていた。


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