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真夏の夜の夢
第3章 第ニ夜
高坂 紬(こうさかつむぎ)は一目見て、
その部屋が気に入ってしまった。
南向きの角部屋、ベランダも広く解放感がある。
おまけに都心のワンルームマンションなのに
5万円という賃貸料も魅力的だった。
「どうですか?お気に入りましたか?」
ドアを解放させて
廊下から顔だけを覗かせて仲介業者が
バリトンの涼しげな声で問いかける。
倫理的に部屋で男女二人っきりになるのは
ご法度なのはわかるけど、
なんだか勝手に部屋を見なさいと言われているようで釈然としなかったが、
そんな気持ちを打ち消すほどに
紬はその部屋が気に入った。
「前の借り主はどんな方でしたか?」
そう尋ねると、待ってましたとばかりに
「大家さんの姪ごさんが使っておられました
それに他の部屋もほとんどの住人は女性ですので
安心ですよ」
よどみなく、もう何度もそのセリフを言ってきたかのように
不動産仲介業者の男はそう言った。
何から何までパーフェクトだった。
紬は即決に近い形でその部屋を契約した。
一週間後・・・
「へえ~、綺麗な部屋じゃん」
まだ引っ越しの荷物が片付いていない部屋を
彼氏の悟がキッチンの換気扇の下で
タバコをふかしながらそう言った。
「あんまりタバコを吸わないでよね
壁紙が黄ばんじゃうから」
「わかった、わかった。
それよりかさ、ちょっと休憩しようぜ」
ろくに片付けを手伝いもしないで
悟はタバコを灰皿に揉み消すと
ベッドに腰かけて
隣に座りなよという意味をこめて
ベッドをポンポンと叩いた。
「もう!全然片付かないじゃないの!」
口調は怒ってはいるが
紬は悟に甘えたくて彼氏の隣に密着して腰かけた。