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ムッツリ最高〜隆の想い〜
第5章 この先へ


 その焦がれとは裏腹に、空中庭園のほのかに明かりのついた遊歩道を歩きながら、一昨日の夜、クミが僕の家にやってきた事を暗い気持ちで思い出していた。



"ほら、これが私の新事業だから"



 書類を投げるように僕の書斎の机に置く。


 相変わらず、薄い体で、きつい目をして、皺のよった目元に似合わないパープルのアイシャドウをつけている。
 腕を組みながら、父から譲り受けたこの家の書斎を眺めまわし、鼻で笑うように言う。



"相変わらずカビ臭い家ね。
どうしても別に住みたいって言うから、女でも連れ込むかと思ったら、相変わらずの本の虫。
私には関係ないけど。
とにかく、この事業が軌道に乗るまでは、人前では夫婦としてしっかり振舞ってもらうからね。"



"軌道に乗ったら・・・"


 別れてくれるのか、と言う言葉を言いかけた僕に、クミは、もう一度書類を投げつけ、激しい口調で言う。



"何度も言わせないで!私は離婚するような恥は晒さないわ!"



 彼女は、何にこだわっていると言うのだろう。
 もう、何年も、夫婦ではない。別々に暮らし始めて、もう、2年になる。
 ただ、その戸籍に、離婚という履歴を残したくないという、意味のわからないこだわり。



 彼女の左手首の大きなブレスレットが、かちゃかちゃと音を立てて、僕は言葉を飲み込む。



"帰るわ!"



 大きな音を立ててドアを閉め、彼女は出て行った。

 そんな日常が、ただ、続いていくのだと、半分諦めたような気持ちで過ごしていた日々。


 でも、僕は、鈴音に出会って、救われたのだ。

 一昨日も、そんなクミがざらつかせた僕の心を、この2ヶ月の鈴音とのやりとりが、しっとりと和ませてくれたのだ。


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