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熱帯夜に溺れる
第1章 梅雨と乙女心
 このワンピースは純のために選んだお気に入りだ。肌の調子も良い今日はメイクも上手くできた。まつ毛だって、バイトを終えた今もマスカラでばっちり上がっている。
 メイクも服も今日の仕上がりは満点だ。
 それなのに竹倉純は莉子を見てもくれなかった。

 今日、莉子の隣を歩いていたのは純じゃない。服を褒めてくれたのも純じゃない。
 作戦は失敗に終わった。

 道を歩いてる時も電車待ちのホームでも電車に乗ってる時も涙は封印した。人前では泣かない、それが子供の頃に決めた莉子のマイルール。

 家に帰り着いて玄関を入った途端、我慢していた感情が一気に溢れ出て莉子は玄関先で泣き崩れた。

 彼のために選んだ新品のワンピースはスカートの裾が雨に濡れて湿っていた。

 純に可愛いと思われたかっただけ
 純の視界に入りたいだけ
 他の誰でもなく、純だけに可愛いと思ってもらいたかった
 純以外からの「可愛い」なんていらない……。
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