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雨の降る夜は傍にいて…
第1章 台風の夜
 9 祝杯

 私は三日間の仕事を終え、この宿泊しているホテルの最上階のバーで飲んでいた。
 やや、厄介な内容の仕事ではあったのだが、何とか予算内にも収める事ができて、まずまずの結果と言えたのだ。
 そしてまずはひと安心をし、祝杯の意味を込めてこのバーを訪れた。
 だが、私は多忙を極めており、明日は京都へと更に出張を重ねなくてはならなかったのだ、だが、幸いに、いや、最悪な事に大型台風接近により、新幹線、飛行機等、京都に向かう交通機関が全て運休となったのである。
 だから明日はこの台風のおかげで予想だにしなかった、完全オフとなったのである。

 京都行きは明後日の朝イチとなったのだ…

 だから色々な意味での祝杯となった。

 よし、そうなると腰を据えて飲むか…
 そう思い、二杯目を何にするか考えていた。

 さすがに大型台風接近の夜である、この最上階のバーも私がカウンターに一人という感じで、閑散としていたのだ。

 うん…

「こんばんは…」
 すると一人の女性客がカウンターにやってきた。

「いらっしゃいませ…」

 おっ、なかなかいい女じゃないか…

 彼女は三つ隣の席に座った、そして座るなり
「ドライマティーニを…」
 と、バーテンに告げる。

 ん、常連客なのか…

 こんな高層シティホテルの最上階のバーに女性客一人で堂々と訪れ、迷いなくカウンターに座るなり、ドライマティーニを注文する。

 常連客に違いない…

 それにしてもいい女じゃないか…

 年齢は30代半ばくらいか…

 スレンダーな感じで、モスグリーンの落ち着いた、品のあるワンピースを着ている…
 そしてバーテンに告げた際の、ややハスキーな声が妙に私の心を騒つかせてくる。

「どうぞ…」
 バーテンがカクテルグラスにドライマティーニを注いでいく。
 そして私は何気なくその様子を眺めていた。
 
 こんないい女、眺めるだけでも酒が美味いや…
 そんな事を思いながらも、さり気なく見る。

 あっ…
 すると彼女はドライマティーニに添えられているオリーブをいきなり囓ったのであった。

「ほお、いきなりオリーブを囓る方は初めて見た…」

 私は思わず、そう声を掛けてしまったのだ…





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