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雨の降る夜は傍にいて…
第2章 春雷
 27 春雷の悪戯

「あの頃、たーちゃんもよく言ってたなぁ」
 そうゆり姉ちゃんは言ったのだ。

「えっ、兄貴もっ」
 俺は思わず驚いた。

 兄貴もそうだったのか…
 最近、なんとなく、バッティングで思い切れないのである。
 そしてなんとなく腰のキレが悪く感じていたのだ。
 俺は、いつもそんな時は走っていたのである。
 ただ今日は雨が降っている、だから体育館で走っていたのであった。
 

 ゴロゴロ…

 春雷の雷鳴が大分小さく遠のいていた。

「そうかぁ、兄貴もかぁ…」

「うん、よくそう言って走っていたわ…」

 ブツンッ…

「あっ…」
 その時である、突然、体育館内の、いや、停電であった。
 遠のいた春雷の悪戯であろう。
 そして一瞬にして真っ暗になったのである。

「ゆり…」
 その時であった、俺は無意識に、目の前の後ろ姿のゆり姉ちゃんに、そう耳元で声を掛け、後ろから抱き締めてしまったのである。

「ゆり…」

「あっ…」
 だけど、ゆり姉ちゃんは逃げなかったのだ。
 
「あんっ、た、たーちゃん…」
 そして、兄貴の名前を呼んだ。
 おそらく、ゆり姉ちゃんの意識があの7年前に、一瞬にして還ってしまったのだと想われた。

 チャンスだ…

 きっと兄貴と錯覚しているのだ…

 悔しいが、このチャンスを逃す手はなかったのだ…

「ゆ、ゆり…」
 そして俺は兄貴のつもりで名前を呼ぶ。

「あん、た、たーちゃん…」
 するとゆり姉ちゃんはそう応え、首を後ろに向け、そして唇を寄せてきたのである。

 ゆり姉ちゃんは無意識のようであったのだ、おそらく彼女の意識は一瞬にして7年前にタイムスリップしたかのようであったのだ…








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