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雨の降る夜は傍にいて…
第3章 9月の雨(September Rain)
 1 お願い…

「ねえ彩ちゃん、お願いがあるんだけど…」

「ええ、社長ぉ、何ですかぁ…」

 わたしは父親が亡くなった後、高校のバスケットのコーチと教師を辞めて、父親の事業の跡を継いだ。
 これは父親の遺言的でもあり、仕方がなかったのである。

 わたしの継いだ会社は、建設資材、骨材系の仲介、手配の商社的な会社で、父親が築いた固いルートがあるので仕事は比較的安定し、新規開拓の必要性は今は無いので暇といえば暇であり、それ程毎月の売り上げや景気の上下動もなく、日々安定し、平和なのであった。
 そんなウチの事務所に事務員としてこの彩ちゃん、30歳、元ヤンキーのヤリマン女だったと自称する彼女は在籍している。
 この彩ちゃんはそうは云ってはいるのだが、『能ある鷹は爪を隠す』
 の諺の如くに、実は見た目の軽さからは想像もつかない、簿記検定2級、算盤の段持ち、書道も段持ち、ワード、エクセルのみならずパソコン検定準2級保持者という事務員としてはより以上なハイスキルを持っており、こんなわたしの小さな個人会社に本来いるような人物ではないのである。
 そもそもはわたしのバスケットの直の後輩の後輩という流れで、昨年春からウチに来てくれているのだ。

 そしてわたしはそんなスーパー彩ちゃんに、お願いをする為に話し掛けたのである。


「実はさぁ、今夜………」
 実は、今夜、いつも受注した仕事を発注し、資材の配達を依頼している運送会社の二代目ボンボン専務からの食事のお誘いがあったのである、そしてその食事に彩ちゃんにも一緒に同行して欲しいという事のお願いであった…


「ええわたしは別にぃ、今夜予定ないですからぁ、一緒に行くのは平気ですしぃ、構わないですよぉ」
 と、彩ちゃんは快諾してくれたのだ。

「わたしさ、あの専務が苦手でさぁ…」

「ええ、あの専務、なかなかいい男じゃないですかぁ」

「うん、まあ、そうなんだけど」

 実は、わたしの会社から仕事を依頼する訳なので定期的にその専務の運送会社から接待を受けるのであるが、前回の食事の接待の時にその専務から口説かれて、わたしが上手くはぐらかして逃げた経緯があったのである…

「あっ、もしかしてぇ…」

 さすが、元ヤン、ヤリマンの彩ちゃんにはピンときたらしい…

「うん、そうなの…」

 彩ちゃんの目が光る…






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