この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
甘い蜜は今日もどこかで
第5章 【もし間に合うのなら】
「うん、聞いてるよ」
「3日ほど前から引き継ぎに入りますので」
「うん、わかった」
離してはくれない手を自ら離した。
これ以上はダメだというサイン。
「怒ってる?」
「………怒ってます、もうこんなことやめて欲しいです、何しに来てるのかわからなくなります」
「ごめん……困らせたい訳じゃないんだ……我慢しなきゃダメだよな」
我慢させるだけさせて、最後はその手を握らない。
せめてもの罪滅ぼしで通常の職務の合間を縫ってマーケティング等のセミナーをマンツーマンでレッスンすることにした。
勿論、副社長室で2人きり……ではなく、皆の目がつく場所、カフェエリア等でお勉強タイムです。
そうすることで他の社員からも副社長に対するイメージが変わってくるんじゃないかなって思う。
笑ったり怒ったり褒めたりとなかなか忙しい。
口を尖らせて拗ねるも、仕事に戻れば決断力の溢れるナンバー2の顔になるんだもんね。
退社してエレベーター前に行こうとした時に先に待たれていた他の部署の方が「俺もあの秘書に色々教わりたいわぁ」と同僚の方に話しているのが耳に入ってピタリと脚が止まる。
タイミング悪………次にしようかな。
「俺等じゃ話すら出来ない雲の上な存在だよな〜」
そんはなずはないです。
お話する機会がないだけで。
「俺は美人過ぎてムリだわ、ひよっちゃう」
「アハハ、それな」
「マジであの目で見られたらちょっとヤバいぞ」
「恋人になる人は相当デキた男じゃないと無理だろうな」
「やっぱ副社長か?デキてたりして」
「はぁ〜総務部にもあの秘書さん来てくれないかな〜」
「プレゼンで来てた頃から俺はファンでして……」
終わりそうにないしエレベーター来ないし。
階段で降りる!?
そっとフェードアウトしようとしたら
「あれ?何でこんなところに?一緒に帰ろう〜」って先輩秘書たちがドドド…と後ろから押し寄せて来た。
わわわっ……と前に出る。
バッチリとエレベーター前に居た社員さんたちと目が合った。
どんな顔して良いかわかんない。
「何でずっとあそこに居たの?」って今聞かないで〜隠れてたのバレバレです。
社員さんたちも目が泳いでる。
頭を掻いて「お疲れ様です」なんて元気良く挨拶してくれて。
苦笑いで会釈するしかなかった。