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甘い蜜は今日もどこかで
第1章 【本当は嫌なのに】





「黒本さまも大事なクライアントでしょ?」って語尾にめちゃくちゃハートが飛んでる。
黒本さまとはよくご利用頂いているレンカノの常連だ。
めちゃくちゃ紳士でスマートな方だけど寡黙過ぎて何考えてるかいまいちわかんない人。




他に入ってる仕事は別のスタッフが対応することになった。
私と同じくスペシャリストに位置するスタッフだ。
逆に秘書業務代わって欲しいくらいだよ。




「藤堂椿を直々にご指名だからね」と念押しされ渋々受け入れるしか出来なかった。
どんな仕事も全部、吉原さんのお眼鏡にかかったなら私にとっても意味のある仕事なんだって思ってやってきたの。
お金大好き人間だけど、私にプラスにならない仕事は受け付けないってこともわかってるから。




「新しい自分の魅力、磨いといで」




契約期間は半年。
その後延長するかどうかはトップである吉原さんが決める。




「絶対絶対、半年で契約終了してくださいね?」




「ちゃんと仕事と割り切って貢献してきたらね」




半年なんて独占契約だ。
同じ人を月単位で指名契約すること。
それを最大6ヶ月全部とは。
言われたら行きますよ、行きますけど……不本意だな。
あの人、グイグイ来そうなんだもん。
「気に入られて困ることでもあるの?」と聞かれ愛想笑いで誤魔化すしかなかった。




帰りの車で無言のジロウが少し気になり始める。
いつもなら煩いくらい話しかけて来るのに。
ずっと前見て運転に集中してる。




「着きました、お疲れさまです」




マンション前で、普通ならここで終わり。
「ありがと、おやすみ」って車を降りて帰るのだけども。




「あ……ジロウ、トイレの電気切れちゃってたんだよね、朝急いでたから言い忘れてたけど今ちょっとだけ寄って交換してくれない?私届かないし電気ないと不便だし」




「………わかりました、駐車場停めますね」




何だよ、その一瞬出来た間は。
明らか嫌そうだったよね?
さっさと帰りたい用事でもあるの?




「新しいのって替えあるんですか?」って部屋に入ったら後ろから抱き着いた私に硬直してる。




「ちょ、椿さん、からかわないでください」




「何怒ってんの?機嫌悪いじゃん…」




「いえ、そんなことないっす」










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