この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
甘い蜜は今日もどこかで
第5章 【もし間に合うのなら】
その日の業務報告と副社長の様子などを確認していた。
そんな時にサッと目の前に預けておいたタブレットを開けて見せてくれるのは他の誰でもないジロウであって。
通話中だからアイコンタクトでお礼を言う。
お手洗いのついでに電話するって言わなくても見抜いて来るのね。
本当、優秀なマネージャーね。
「そう、副社長の体調面も変わりない?あの人、すぐ食事抜いちゃう癖があるからその辺も明日、報告お願いします」
電話を切った後に少しだけ入力して、終わるまで離れた場所で待っていてくれた。
タブレットを手渡すと「もう戻りますか?」と聞いてきて立ち上がる。
「ジロウは?ご飯ちゃんと食べれた?」
「椿さんってとにかく相手がちゃんと食べてるか気になる人なんですね、自分もめちゃくちゃな時あるのに」
やっと2人になれて話した会話がコレか。
「タブレット助かった、ありがとう」と背を向けた瞬間。
「僕、聞いてなかったっすよ、あんなシーン撮るなんて」って私の足を止めてきた。
「ん…?」
なるべく明るい感じで振り向いて「何が?」的な顔して。
怒ってもなくて、悲しんでもない無表情なジロウ。
似合わないよ、ジロウにポーカーフェイスは。
「どうしたの?」
わざと聞いてる。
核心はついてこないってわかってるからいつもの調子で虐めちゃうんだけど。
本気で言ってるのは嫌でもわかるからまた引いちゃう。
気付いてないフリ、いつまで続けるんだろう。
「キスシーンは台本にも書いてあったでしょ?ジロウも目を通したよね?」
「はい、ですが、アレは明らかに台本にはない行き過ぎた行為ですよね」
「さぁ…?作品を創り出すのに臨機応変は大事だし、その辺はプロとしても共感出来る部分ではあるよ、ていうかジロウどうしたの?もしかしてお酒飲んじゃった?もう、弱いんだから…」
髪を撫でようと手を伸ばしたら拒否られた。
珍しく怒ってる…?
「とにかく、会社の方針としてはどうなのかなって思っただけです、明日も撮影が無事に進むよう願ってます、早めに寝てくださいね」
だよな、そう来るよな。
嫉妬心丸出しだけど最後はそうやって逃げる。
自分を正当化する。
本当、似た者同士の2人ね。