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甘い蜜は今日もどこかで
第2章 【曖昧なカンケイ】







「お疲れさまです」と退社してすぐ会社前に停まっていたジロウの車に飛び乗る。
先に向かったのは事務所で、シャワー室もメイク室も完備してあるので綺麗にしてからデート服に身を包む。




お得意さまの黒本さんはかれこれ一年近くご指名頂いている。
ただ隣に居てくれれば良い…といった寡黙なクライアントだ。
沈黙も気にならない程度の距離感を心掛けている。
リピーターだからそのやり方に問題はないのだろうけど。




「お待たせしました」と待ち合わせ場所に行くとホッとしたような笑顔を見せてくれる。
「来なかったらどうしようかと思って」って言われるけどこちらからキャンセルするはずないじゃないですか。
ちゃんとお支払いも済んでらっしゃいますし、オプションもつけて頂いているのに。




恋人繋ぎして、黒本さんを「ゆずるさん」とお呼びする。
写真撮影(SNS投稿はNG)や腕組み、たまに服装指定も。
今日は指定なしだったけどワンピースがお好みなのかな、と大人っぽくベルト付きのシフォンワンピースにしてみた。
そして、敬語なしで……とお願いされた。




行き先も全て黒本さんが毎回決めてくれていてエスコートはしてくれるものの、まだ女性慣れは出来てない様子だけどそことは気にしなくて良いくらい一緒に楽しんであげる。
緊張感を忘れさせる……が第一だと思うから。
限られた時間でどれだけ本物に近いカップルになれるかどうか。




「今日の服装……めちゃくちゃ可愛い」




目を合わすことなく照れながら一生懸命言ってくれた言葉。




「ゆずくんの好みに合ってると良いなって思って選んでみた」




「え?あっ……呼び方……」




「ダメ?ゆずるさん…よりゆずくんの方が近い感じするなって」




真っ赤な顔して頷いている。
何だか動きが小動物みたい。




「良い、ドキッとした」




「勇気出して良かった、エヘヘ」




ギュッと手を繋いで繁華街を歩いていく。
途中で写真も撮りながら他愛もない話をして、笑って。









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