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密会
第10章 🌹March(終章)-1🌹
「....男の名前と連絡先は?」
激怒している筈の彼から飛び出た予想外の言葉に、
美月は「え...?」と戸惑いの声を上げた。
「お前を抱いた男の名前と連絡先を言えと言っている。それぐらい分かるだろう。」
言葉に怒りを滲ませたまま、有無を言わさぬ口調で日比谷教頭は美月を咎めた。
「...ご、ごめんなさい...どっちも分からないの...。」
内心泣きそうになりながら、美月はそう彼に伝えると、彼は鋭利な双眼を綺麗な三日月の形に細めた。
「お前はその男に惚れているんだろう?」
負の感情を無理矢理押し殺したような、貼り付けたような笑顔を浮かべる日比谷教頭に美月はゾッとした。
すぐさま彼女は首を左右に振って否定する。すると彼の作り笑顔が崩れて、能面のような顔付きへと変わったのだ。
「この期に及んで、まだ嘘を重ねる気か?」
完全に目の光を失い、日比谷教頭の瞳孔が大きく開かれる。彼は、すっかり縮み上がってしまった美月の首に手をかけた。
ヤバい。このままじゃ殺される。
本能的に絞め殺されると思った彼女は、自分を扼殺しようとしている彼に無我夢中で訴えたのだった。
「違う!違うの!本当に私、分からないの!彼、何も教えてくれなかった!教えてくれたのは、偽名と嘘の職業だけ。私が分かっている事は、彼の両腕には和柄の刺青が彫られていて、上半身には傷跡と注射痕もあって、それで...彼は人を騙す事に何の罪悪感も無い薄情な人間だったって事だけなの....。」
「そんな卑劣な男に何故お前は抱かれたんだ?え?」
頸動脈付近にまで移動していた手を引っ込めると、彼は思いっきり美月を睨み付けた。
「私、だ、騙されたの。でも気づいた時には、もうホテルで身体の中に彼を受け入れてたから、どうする事も出来なくて。」
「...。詳しく詳細を聞かせろ。」
語気を荒げ、咎めるような視線で美月を威圧する日比谷教頭に対し、美月は恐る恐る、口を開き、不安に押し潰されそうになりながら彼に全てを語る事となった。