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密会
第5章 🌹August-2🌹
何度も失神させられたセックスを経て、日比谷教頭のベッドの上で覚醒した私は、隣に寝転んでいる彼の背中を視界に捉え、「え」と思わず驚きの声を上げそうになった。
「起きたか?」
そう言うと彼はクルリとこちらに身体を向ける。彼は、普段セックスの後、何事もなかったかのように元通りにスーツを着用し、備え付けの椅子に深く腰掛けて読書に耽るかスマホを操作しているか、そのどちらかだ。
そして眠りから覚め、シャワーを浴びて身支度を整えた私に、次の密会日を告げてホテルを出る。
セックスの後戯なんてものは無いに等しい。性交渉後に意識を飛ばした私の目覚めを隣で待っているなんて事は普段ならまずありえないのだ。
「今日は私の我儘に付き合って頂き...ありがとうございました。」
やや困惑した頭を冷静にさせる為にも、彼にひとまず感謝を述べると、ペコッと頭を下げる。
「お前が楽しかったのなら、それでいい。」
穏やかな口調でそう言うと、普段からは考えられない程、優しくて慈愛に満ちた瞳で彼に見つめられ、頬を撫でられる。
何ともむず痒い気持ちになりながら、彼のされるがままになっていると、頬を撫でていた手がいつの間にか私の後頭部に移動する。グッと距離が縮った後に、彼の唇が私の唇に隙間なくゆっくりと重なった。
「離したくないな。」
蕩けるような口づけから解放された後に、鼓膜を伝わってきた彼の言葉は、思わず口から溢れた独り言のようで、今度こそ私は目を丸くした。
「それって...どういう」
その真意を尋ねたが、いつもの無愛想な表情に戻ってしまった彼は結局それに答える事無く、バスルームへと消えていってしまった。