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ある冬の日の病室
第1章 裏切り
 年明け早々、僕は山名と権藤に裏切られた。三人でスノボの約束をしていたのだが、奇跡的に山名と権藤に女ができたのだ。山名と権藤はそろって僕にこう言った「男同士のスノボより女」間違ってはいない。僕だって彼女が出来たら、スノボなんかより女を取る。
 それにしても友情なんて、湖に張った氷のようにいつどうなるのかわからないものだ。
 恥ずかしい話、僕ら三人は、彼女いない歴十九年で、つまり女の体を知らない童貞なのだ。もちろん金さえ払えば、僕ら三人だって即席の童貞卒業証書は一応もらえる……が、やはりそこは付き合っている彼女でなければならない、と誰かが言ったのだ。山名だったのか権藤だったのか、それとも僕だったのかはもう忘れた。
 そしてこのおかしな決まりごとが僕ら三人を強く結び付けた……はずだった。もう一度言う。友情なんて湖に張った氷と同じだ。誰かの為に日が昇った時、氷はいとも簡単に解ける。
 レンタカーにボードを積んで、僕は一人でスキー場に向かった。レンタカー代は山名が、一泊の宿代は権藤が出すことになった(というより、そうさせた)。
 スキー場に向かう道中、僕は二人に呪いをかけた。「どうか山名と権藤が見事にふられますように」と。「山名と権藤がいつまでも童貞でありますように」と。呪いは、僕がスキー場につくまで途切れることなく続いた。
 ホテルに到着してチェックインを済ませると、僕は早速ゲレンデに出た。確かに女では山名と権藤に先を越されたが、モテるために三人で始めたスノーボードは、山名と権藤を置き去りにするくらい僕は上達していった。
 しかし、落とし穴と言うものはこういう時に用意されている。
 自慢するわけではないが、僕は小学生の頃から体育が得意だった。高校まで僕の体育の評価が落ちたことは一度もない。だからスノーボード初日で、スケーティングからワンフット直滑降、木の葉落とし、そしてターンまで僕は難なくこなせた。
 スノーボードは今回で三回目、僕は上級者コースを選んでリフトに乗った。周りは本物の上級者ばかりで、上から下を眺めると傾斜もきつく見えたが、僕はゆっくりとターンを繰り返しながらなんとか滑ることができた。
 上手く滑れることが楽しくて、山名と権藤を恨むことなど、僕の中からきれいに消えていった。そして僕はストンと見事に落とし穴に落ちたのだ。
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