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ある冬の日の病室
第4章 別れの予感~からの……
 翌朝、僕は周りの音で目が覚めた。いつもなら元気な胃腸が僕を叩きお起こすのだけど、僕はそれ以上に深く眠っていたようだ。
「そうだよね、君が朝ごはん抜きなんてことはないよね」
 声の方に目をやらなくても誰だかわかる。次に来るだろう皮肉と嫌味にうんざりする毎日であったが、今日は何があろうと僕はびくともしない。ところが足立看護師の次の言葉が僕を動揺させた。
「若いっていいよね。君さ、あと四日か五日で退院だそうよ。よかったわね」
(もう少し伸ばしてもらえませんか?)と僕は思わず言いそうになった。
「それじゃあ朝ごはん召し上がれ」
 足立看護師はそう言って、ベッドの上のテーブルに朝食のトレーを乗せた。
「……」
 食欲が急に失せた。あと四日か五日で里奈と会えなくなる。
「あれ? どうしたの? いつもならうちのワンちゃんみたいにバクバク食べるのに。ひょっとして私に会えなくなるのが寂しくなった?」
「……」
 つまらない冗談を気にしている場合ではない。
「ごめんなさい、私結婚しているのよ」
 そう言って足立看護師は左手をひらひらさせながら、薬指についた指輪の跡を僕に見せた。
「……」
 どうしたらいい? 僕は心の中を整理している。答えが見つからない。里奈と会えなくなるのだ。
「何だったらもう一週間くらい病院にいる?」
「えっ?」
 僕は足立看護師の顔が初めて天使のように見えた。
 が、もちろんそれが許されることなどない。病院はホテルではない。
「いつものようにしっかり食べて、早く退院してね」
「……」
 どうすればいい? 思考が止まり、僕は呆然とした。
 あっという間に一日が過ぎた。就寝時間になり灯りが消される。眠ることなどできないと思ったが、目を瞑ると僕は一気に深い眠りに落ちることができた。そして里奈の甘い香りで起こされる。
「よかったわね、もうすぐ退院で」
 里奈は昨日のことなど忘れたかのように僕にそう言った。
「……」
 僕は里奈の目だけを見ていた。
「どうしたの?」
「あの……」
「いつもの翔君じゃないわね」
「会いに来てもいいですか?」
「えっ?」
「里奈さんに会いに来てもいいですか?」
 人生で初めての台詞だった。
「ふふふ、こんなおばさんに会うためにわざわざ東京から来るの?」
「里奈さんはおばさんなんかじゃないですよ」
「ありがとう。翔君は優しいのね」
「いいえ」
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