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ある冬の日の病室
第2章 奇跡
 四人部屋の病室で、僕は廊下側だった。見舞客は母と山名と権藤の三人だったが、僕の枕元にあるテーブルには、たくさんの見舞い品が置かれている。同じ病室の三人を訪ねてきたお見舞いの人たちが、僕にもお見舞いのおすそ分けをしてくれるからだ。
 ところがそのお見舞い品を見張っている人間がいる。足立看護師(銀縁眼鏡をかけた嫌味な女)は、いちいち僕のテーブルを確かめ、その品々の確認を怠らない。病院食以外は絶対に口には入れさせないのはわかるが、僕の胃腸はいたって元気で、病院食だけでは足らない。つまみ食いを試みたが、見事に足立看護師にばれて、廊下まで聞こえるような声でたっぷり説教された。
 僕は怪我を治すことができても、足立看護師のせいで、僕の精神状態は最悪な状況に陥りそうだった。あと何日で退院できるのか、僕は指折り数えてその日だけを待った。
 五日目、いや六日目だっただろうか、深夜、僕のスペースのカーテンを開ける音で目が覚めた。
「あら、御免なさい、起こしちゃった?」
「……」
 足立看護師でない誰かが僕を見てそう言った。
「深夜の見回りよ。私は夜勤を担当している看護師の内田里奈です。よろしくね」
「……里奈さん」
「ふふふ、里奈さんなんて久しぶりにそう呼ばれたわ。最近は子供だけでなくて主人もお母さんて呼ぶのよ」
「……」
 綺麗な人だった。気のせいか、香水の匂いもした。
「坂口翔(かける)君。私の息子と同じ名前ね」
「じゃあ内田翔……君」
「そう、内田翔。中学三年生で夏は野球部、冬はスキーをしているわ。勉強はいまいちかな」
「羨ましい」
「えっ?」
「綺麗なお母さんで翔君が羨ましいです」
 心の声がそのまま出た。
「お世辞でも嬉しいわ。ありがとう」
「お世辞なんかじゃありません。まじ綺麗です」
「まじ綺麗か、ふふふ」
「あの、ずっと夜勤なんですか?」
 足立看護師の顔が浮かんだ。できれば深夜には会いたくない。いやいやどんな時もあの女には会いたくない。
「多分君が退院するまでは、私は夜勤ね。それがどうかした?」
「いや……」
 足立看護師のことで愚痴でもこぼそうかと思ったが止めた。
「御免なさい、今度は起こさないようにするから」
「……」
(できれば起こしてほしい)という言葉を僕は何とか飲み込んだ。
 地獄に仏。僕の入院生活に希望の灯りが灯る。僕にも奇跡が起こった。
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