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だから先生は頼りない
第2章 爪先
「抑えきれない下半身ウズかして格好つけてんじゃねーよ」
「お前のそうゆうとこマジ嫌い」
小気味好く笑った蜂須賀をじっと睨む。
「教師相手だから、ねえ」
ちゃっと音を鳴らして口を緩く開いてガムを噛んでから思案気に呟く。
「針谷先生が近所の兄さんだったら猛烈アタックすんの?」
「それ死語だろ」
冗談で跳ね除けても有我は真剣だった。
腕を組んで少し前かがみにこちらを見つめる。
「どう思う。今の新城のストッパーって教師と生徒ってだけ? オレ違うと思う」
目尻に淡く風が吹きかかったみたいな、ささやかながらも心がざわつかされる。
茶化していた蜂須賀も口を結び、二人の視線が自分に重なる。
「え……そんなん、そうだろ」
「じゃあ卒業するまで待つわけ?」
「なんでそんな……きつい言い方すんの」
「別に」
有我の言葉は頭いいやつ特有の正論を突きつける鋭さがある。
こいつが見限ったらもう終わりのような、ひとつのラインになりうる存在だ。
急に居心地が悪くなって足を組もうとしたが、そもそも足をのばして爪先を交差する程度しかしてこなかったので利き足を上下どちらにすればいいかわからず、所在なさげに床に落ち着かせてしまう。
喉が渇いた。
いやだ、この話。
「俺は、今すぐどうこうしようとは思ってない。迷惑だし、先生がそんな目で俺のこと見てないのわかってるし」
わかってるのか。
そうか。
わかってるんだ、俺。
針谷に恋愛対象として見られるわけがないって。
ああ、泣きそうだ。
あんなに昨日は嬉しかったのに。
あの倉庫での短い時間を特別に思っているのは俺だけだって、わかってる。
わかりたくないのに。
ささくれひとつ。
それより小さい、針谷の中の自分。
「新城、諦めろなんて言ってないよ」
「同じだろ……有我は間違ってねえよ」
「だから違うって」
珍しく語気が荒くなったので、申し訳ない気がした。
有我は感情を出すタイプじゃないのに、イラつかせてる。
ため息を零した後に、有我は立ち上がってスマホ片手にパソコンの方に戻った。
「アーリガ。言うの我慢すんの体によくねーぞ」
ソファの背を叩きながら蜂須賀が煽ったが、有我の背中は向きを変えなかった。
虚しさが降りてきた。