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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~
第1章 一つめの恋花 春の夢 其の壱
 あたかも芝居の中で優しい女(おみな)の顔が怖ろしき夜叉に変化(へんげ)するかのように、女の美しい貌が一瞬にして歪んだ。
「ああッ、あの子が呼んでいる! 慎太郎が私を呼んでいるわッ。早く、早く行かなければ」
 なりふり構わぬ勢いで身を翻そうとする女を咄嗟に後ろから抱き止め、清七は女の耳許で大声で怒鳴った。
「おい、落ち着けよ。一体、何だっていうんだ?」
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