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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~
第1章 一つめの恋花 春の夢 其の壱
 女がゆるゆると面を上げた。その白い頬をころがる涙の雫に、清七はハッと胸を衝かれた。
「行っちまった、聞こえなくなっちまったよ。あんたが邪魔をするから―、あの子の行く方がまた、判らなくなっちまったじゃないか。あの人もあの子も皆、行っちまう。私を一人ぼっちにして、行っちまうんだ」
 女は泣きながら言うと、両手で顔を覆った。まるで心を二つに引き裂かれるかのような、狂おしくも切ない泣き声がひとしきり春の夜気に響く。
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