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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~
第9章 桜いかだ 其の弐 
 弥助は、一度めにおれんを抱いた瞬間のことを思い出した。愕いたことに、おれんは、いまだ男を知らぬ身体だったのだ。おれんほどの艶な中年増で、しかも縄暖簾の女将という商売柄、まさか清らかなままの身体だとは正直、想像もし得なかった。
 現に、弥助が知る限りにおいても、おれんは三笠屋藤次郎を初め、多くの男が懸想していたのだ。そんな言い寄ってくる男たちの中の誰一人として拘わりを持たなかったなぞ、考えたこともなかった。
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