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第10章 桜いかだ　其の参

　月明かりの中、花びらが雪のように舞い狂う様は幽玄でもあり、また、限りなく艶(なま)めかしくもある不思議な光景だ。
　弥助はそっと片方の手を前へと伸ばして、花びらを掬い取ろうとする。だが、舞い落ちる桜の花びらは捕らえようとしても、ひらひらと手をすり抜けてしまう。
　刹那、弥助の手を逃れたひとひらの花片が小鳥に変わって、飛び去ってゆく。
―待ってくれ。行かねえでくれ。
　何故か、ここに一人で取り残されるのが無性に怖かった。