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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~
第11章 四つめの恋花 山茶花~さざんか~ 其の壱
千汐は小さく瞬きを一つ、した。
そうやってから、眼を凝らし、自分の前を見つめる。
次第に人影が近づいてくる。
どうやら向こうも雪の幕越しに、千汐の姿はあまり眼に入ってはいないようだ。危うく橋の真ん中で千汐にぶつかりそうになり、相手が小さな声を上げた。どうやら、若い男らしい。互いに差した傘の先が触れる。
「申し訳ありません」
男は育ちの良さを窺わせる丁重な物腰で、千汐に頭を下げた。