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こころから
第29章 久美子14
 電話を切ってからも、スマホから目が離せない。
初めて夫に嘘をついた。
電話を掛ける前は緊張していたけど、
繋がってからは案外落ち着いていた。
夫は疑いもしていなかった。

 あの日、彼に抱かれたあの日、
帰宅して夫の顔を見た途端、否応なしに現実に引き戻された。
夫は、お疲れ様だったね、と言っただけで、
それ以外に何も聞いてこなかったので、私も何も言わずに済んだ。
夫はいつもと変わらない夫なのに、
何もかも知られているような気がして、
夫のことを、怖い、と思ってしまった。
それなのに、不倫してしまったことを、
後悔している気持ちはどこにも見当たらなかった。
淡々と家事をこなして、
何事もなかった顔をして、夫の隣で眠った。
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