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こころから
第54章 久美子28
じゃあね、と言って、さおりはあっさりと帰っていった。
静かになった部屋で、私はパイン飴を舐めている。
舌でかちゃかちゃ転がしている。
薄く甘いパイナップルの味。
くちに入れたものの味を感じたのはあの事故の日以来。
不倫を白状したときの夫の顔。
表情が抜け落ちてしまって感情が読めなかった。
驚いていたようにも見えたし、覚悟していた感じもした。
気づかれていないと思っていたけど、
確信はなくとも薄々何か感じ取っていたんだろうな、と今思う。
夫のことだから、言葉にすると現実になりそうで、
何も聞けなかったんだろうな。
美香が留守の夜、すごくひさしぶりに誘ってきたのは、
そういう予感があったからなんだろうなって、今更気づく。