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担当とハプバーで
第8章 最後の約束
非常階段で煙を吐きながら、コメント欄をスクロールして何分経ったことか。
ハヤテは何を探しているわけでもないのに、文字を追う視線が止まらなかった。
二千件を超えるコメントに、無責任な言葉が並ぶ。
ガチャリと音がして、マサヤが出てきた。
とっさにサングラスを外して、会釈する。
「タツさんのバースデーくらい、タバコ休憩長めにとらしてください」
「怒りにきたんじゃないよ」
マサヤが呆れたように笑い、隣に並んで夜景を眺めるようにもたれかかる。
閉店まで残り二時間。
宣言通り百人の姫まであと三十人ほど。
きっとタツは達成するのだろう。
マサヤの安堵した雰囲気からもそれが伝わる。
「あの動画出してから、新規がすごい勢いで増えてるな」
「意外に奥手なグラサンって?」
「いいね数が高いコメントに囚われるなよ」
「読んじゃいますし、残りますから」
ゆるく開いた手が差し出されたので、器用にタバコを一本そこに乗せて、ライターを添える。
火をもらったマサヤが、空に向かって煙を吐いた。
「今回の企画、ダントツにお前のが再生数伸びたな」
「ボーナスでも欲しいところっすね」
「凛音ちゃんのおかげだろ」
「うっわ。名前出すとかデリカシーないわ」
あえてタメ口で茶化しても、上司は全てを見抜いている。
はあっと諦めた息を零して、画面を切る。
「大丈夫ですよ。あれで結構吹っ切れたんで」
「売り上げも伸びてるし、最近のハヤテはいい空気してるよ。女にハマりこんで身を滅ぼすタイプじゃなくてよかった」
わざとだろうな、とハヤテは脳内で呟いた。
わざと強い言葉で鼓舞をするのがこの人だ。
「目標まで立ち止まるわけにはいかないんで。あと三ヶ月後のバースデーは歴代塗り替えますよ」
「期待してる」
本音なのをしっかりと滲ませると、深く吸い込んでタバコの先端を真っ赤に燃やし、肺を満たしてから火種を潰した。
長く吐いた息が夜空に溶けていく。
「あと五分で戻れよ」
返事を待たずに閉じられた扉を見つめる。
もう一度画面を点けて、動画サイトではなくメッセージアプリを開いた。
下に下にスライドをして、現れたアイコンをタップする。
ぐっと奥歯を噛み合わせた。
本名も告げずに終わった一瞬の関係。
それがきっとこれからの支えになる。