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担当とハプバーで
第4章 明るく怪しい誘い
「ライブチケットこちらで確認しまーす」
大学生くらいの若い女性が受付をする。
もぎられた半券を鞄にしまい、動線上にあるドリンクカウンターに向かう。
薄めのハイボールでいいかな。
二十歳くらいの男性から受け取り、その腕にジャラジャラのブレスレットを見てなんだか懐かしさを覚えた。
意外としっかりアルコールの効いた味に、気分が波打つ。
小さくロックが流れる会場内にはすでに四十人ほど観客がいて、その三割は音楽関係者に見えた。
ギョッとしたのは有岡と同じヘアスタイルが三人いたこと。
そもそも黒髪の方が少ない客層に、ファンの本気を知る。
ライブって本人らのコピーが大量発生するものだけど、百人くらいの箱でもすごいのね。
その熱量に圧されるように後ろの壁に逃げる。
ステージは遠いけれど、観客の向こうでメンバーの顔くらいは見えるはず。
同じく壁にもたれた中年男性がこちらをちらりと見る。
ぺこりと会釈するとドリンクを乾杯するように掲げた。
「お一人ですか」
あれ。
まさかのお声掛け。
五十くらいの男性の柔らかい挨拶を無視するわけにもいかず、愛想笑いで頷く。
それに何処かで見た顔に思える。
「ああ、すみません。KOJIの父なんです。息子の舞台を見に来ただけなので邪な気持ちはありませんよ」
「KOJI……あ、ベースの」
「ええ、親に見られるのは嫌でしょうから、見つからないようにしないとね」
そうですか、と相槌を打ってハイボールを一口飲む。
浩司。
有岡浩司。
有岡のお父さんじゃん。
危うく吹き出しそうになったのを堪えた。
仕事帰りなのかジャケットだけ脱いだスーツ姿。
目元が確かに有岡そっくり。
身長は父親の方が高いかもしれない。
「すぐに退散しますので、楽しんで」
「ぅあ、はい」
思わぬところで同僚の肉親を知ってしまった。
家族像が見えると急に親近感が湧いてしまう。
部下から好かれていそうな笑顔の人だなあ。
顎鬚も手入れされていて、彫りの深さは異国風。
四角い眼鏡の向こうで余裕な眼差し。
派手な見かけの息子のバンド活動を応援してるんだ。
あ、ちょっと胸に来たかも。
自分の父親とは大違い。
やることなすこと出鼻をくじくのが趣味だった。
BGMが止んで拍手が沸き起こる。
真っ暗になったかと思うと、ストロボと共に登場。