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担当とハプバーで
第4章 明るく怪しい誘い

「また今度言いにくるから」
「オッケー。アルバム二枚お買い上げありがと。擦り切れるまで聴いて」
 二千円を受け取り、袋を手渡してくる動作一つが様になっているのも今はよく見えてしまう。
 そういえば、父親はいつの間にか帰っていた。
 三曲目くらいで隣を見るともういなかったのだ。
 顔を合わせるのは気恥ずかしいのかもしれない。
「何笑ってんの」
「今度言う。じゃ、お疲れ」
 有岡は知っているんだろうか。
 あんなに律儀な父親の行動を。
 建物から出て夜風に体がぶるっと震える。
 すごい時間だった。
 血液から若返った気がする。
 毎月行くのはアリかもしれない。
 どうせ部屋で一人携帯をいじるよりは健全。
 でも、これからの私は不健全。
 時刻を確認してから、マップを開く。
 踏み出す一歩目は勇ましく、目的地に近づくごとに速度は遅くなっていった。

 そこは雑居ビルの一角。
 初めて夜明けのジャックに行った帰りに、ナンパされそうになったエリアだった。
 看板も出ていないテナントの理由がわかる。
 おおっぴらに宣伝できない店もあるのだ。
 通行人全員に見られている気がしつつも、意を決してエレベーターに乗り込んだ。
 ホールからすでにライティングがホテルのようで、扉を開くと真っ黒な壁紙と床、受付の男性が顔を上げる。
 うわ、心臓がうるさい。
「いらっしゃいませ。インテイスへようこそ」
「あ、一人です。初めてで……」
 同い年くらいの男は耳までの髪を綺麗な七三に分け、細い目がじっとこちらを確認する。
 身長は百七十くらいかな。
「そうですか。では、会員登録からお願いします。身分証をご提示ください。こちらに住所と電話番号をご記入お願いします。入会金は女性の場合は千円です」
 ロボットのように決められた案内を口ずさみ、用紙とペンをカウンターに置かれる。
 免許証を渡すとスキャンにかけるような動作をしてから、用紙と交換するように返された。
 セキュリティ、プライバシーの対策は厳しいほどに安全ってことだよね。
「あ、終電までには帰りたいので二時間くらいなんですけど」
「ええ、問題ございませんよ。いつでもご退室可能です。飲み物はフリードリンクとなっております。中にスタッフがおりますので、お声掛けください」
 女性用入り口に案内される。
「お荷物はロッカーに。スマホも禁止です」
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