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担当とハプバーで
第4章 明るく怪しい誘い

 サクは片眉を上げて緩く唇を舐めてから答えた。
「見るのは二回目かな。結構前に見たきりで久しぶりに来たって感じか。乙葉ちゃんはああいうのが好きなわけだ」
 好き?
 そんなもんじゃない。
 推しですよ。
 画面でもクラブでもない空間で、存在している違和感の絶大さ。
 何を話して間を埋めたかは覚えてない。
 脳は最早ハヤテの去った方へ意識を向けたきり。
 戻ってきた人影を目線が追う。
 いつものように縛られた髪の毛先はまだ少し湿っていて、とりあえず水分補給をという足取りでバーに向かっていく。
 ゆあ達と話す気は無いのか、端にもたれかかってグラス片手に場内を見回した。
 その目線が重なるまでの数秒間。
 私は自由だった。
 どれほど意識が捕らわれていても、まだ逃げ出せたと思う。
 だから、その、両眼がこちらを認識した時に、あ、もう逃げられないと思ってしまった。
 ハヤテの眼は少し驚いたように見開かれた後で、緩慢に笑みを浮かべて、誘うようにカウンターを指で叩いた。
 こっちに来いと。
 全身にビリビリとしたものが走る。
 なんだろう、寒気とも違う。
 緊張?
 高揚?
 ハヤテがそこに立っている。
 きっと数分前まで情事に浸っていたであろう体は、服を着ているのに裸体を見ているような色気を感じてしまう。
「話しに行かんの?」
 サクは私の興味が完全にハヤテに移ったのを見てとったようで、背中を押した。
 それからテーブルで談笑する二人組の会話に参加した。
 まるで未練の無い対応に、ここでは会話の始まりも終わりも気分次第だと言うのを痛感する。
 抱けもしない興味もない異性に使う時間なんて酔狂な人間以外持ち合わせてない。
 気づけば呼吸が浅くなっていた。
 先程までプレイルームにいた二人の女性は、三人組の男性の元で既に会話に花を咲かせている。
 まるでそこにしか通路がないように、ハヤテまでの空間が色濃く視界を占める。
 体重などなくなってしまったように重力の感じない足取りで、そこに向かった。
 一歩、一歩。
 目の前に立つと、ホストクラブでは感じなかった身長差に心臓が五月蝿く警鐘を鳴らす。
 ハヤテはグラスをそっと置いてから、小さく呟いた。
「人違いじゃなかったな」
 それから意地悪な声で。
「こんなとこ来てんだ」
 心底おかしそうに。
 貴方こそ。
 貴方こそ……
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