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担当とハプバーで
第6章 墓まで連れ添う秘密たち
有岡が隣でイヤホンをつけるのを見ながら、さっきのは言う必要なかったと反省する。
確か父親も内密で来ていると言っていた。
でもあれ以上有岡からの詮索をされたくなくて、会話をどうにか別方向にしたかった意味もある。
ピンヒールなんて履くんじゃなかった。
日曜に久しぶりに靴を買いに出て、ハプニングバーで見かけた女性たちの足元が華やかだったのが過ってしまったせいだ。
通勤なんてスニーカーでいいのに。
同僚に見せるしかないのに、気分が上がって。
花梨に褒められたのだけは心のビタミン。
いつも通りレポートをまとめて、レビュー内容をチェックしていく。
ああ、何回読んでも頭に入ってこない。
だって今日は月曜日。
遅くとも今夜までにスタンプを送るか決めないと。
無意識にヒールで床を小突いてしまう。
周りに迷惑がかからないように、膝を押さえる。
だめだ。
一回忘れないと。
土曜の朝を思い出して、祥里の言葉を反芻する。
「昨日なんで返信くれなかったの」
二人とも目が覚めたのは十時過ぎ。
聞けば二時に帰ってきたと言う祥里は、私が十二時を過ぎてから既読をつけたのが気に入らないそう。
「送迎会で終電かもって言ったよね」
「合間にチェックできるだろ」
「だって祥里が送ってきたの十一時過ぎでしょ。締めの挨拶して、電車に乗ったら眠っちゃったの。家に着いてからやっと携帯見たんだから」
言い訳も普段の怒りがにじむとスラスラ出てくる。
「そっちこそ、朝帰りかと思ったんだけど」
朝食の冷凍ピザをかじりながら、コーヒーを淹れる。
テーブルに両腕を組んでもたれた祥里は、不審そうに目を細めて睨む。
「今、俺関係ねえだろ」
「あるでしょ。毎晩毎晩好きに飲み歩いて。今の私たちの関係ってただの同居人でしかないのに、なんで私は連絡一つで説教されないといけないの」
「結婚資金貯めるために残業代で稼いでんだろ」
良く言う。
この一年給与明細を頑なに見せないくせに。
共通口座も月に十万ずつしか貯まらないのに。
「本気でこのまま結婚できると思ってるの」
ああ、しまった。
強気に出すぎた。
祥里が無表情で席を立つ。
コーヒーが溢れないように、急いでテーブルに置いてから相対する。
ガッと両肩を掴まれ、びくりと硬直した。
「今更別れる選択肢があると思ってんのかよ」