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いい女2 惜別…
第1章 惜別…
 ①

「ヤベぇよ」

「えっ、何が?…」

 初夏…

 わたしがある喫茶店のカウンターでアイスコーヒーを飲みながら、仕事の資料整理をしていると…
 後ろの席の大学生風の彼達の、そんな話しが聞こえてきていた。

「いや、この店の駐車場に赤い
『アルファロメオスパイダーヴェローチェ』が停まってるんだよ」

「何がヤベぇんだよ」

「いや、とにかくカッケーんだよ」

「ま、確かに格好いいかもしれないけどさぁ、そこまでは…」

「いや、違うんだよ、そのスパイダーのギアのところにさぁ、ほら、髪をまとめる紅いゴムが絡んであってさぁ…
 だから、そのスパイダーのオーナーは女の人みたいで…」

「うん、多分そうかも…だけどそれが?」

「違ぇよ、俺の中では赤いアルファロメオスパイダーに乗る女の人は絶対にいい女な訳でぇ…」

「それはお前一人の思い込みだよなぁ」

「違ぇよ、まず、間違いなくいい女、いい女に決まってんだよ…」


 そう…

 その赤いオープンカーの92年式
『アルファロメオスパイダーヴェローチェ』
 は、わたしの愛車である。

 そして…

 わたしは10人が見たら、8人は…
『いい女』だって云ってくれる。

 いや、そんな『いい女』を目指して生きている…


『もうさぁ、オープンカーっていったら、このスパイダーって決まってんだよ』

『しかも赤ね…』

『そのスパイダーは女が運転するっていうのも決まってんだよ…』

『そしてその女は髪が長い…のも決まってんだよ』

『そう昔から決まってんだよ、だからさぁ…』

 と、生前の夫に云われ、わたしが乗る事になり…

 そして…

 夫が亡くなっても…

 まだ乗っている。



 思い出…

 それはもちろんある…

 だが…

 このスパイダーに乗って、風を受け、長い髪をなびかせ…

 深夜の首都高速湾岸線を…

 古いカセットコンポを最大音量にし…

 ディープ・パープルの…

『ハイウェイ・スター』を聴きながら飛ばしていると…



「まるでさぁ…
 亡き夫に…
 ううん、あの人にさぁ…
 抱かれて、いや、セックスをしている様な快感と恍惚感が得られるのよ…」

「いや、アンタ、それ、ヤバいから…」

 唯一の親友がそう云ってきた…




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