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Dear.M ~例えばこんな風に貴女を壊す~
第1章 出会い
「荷物は以上となります。本日はご利用ありがとうございました…」

「ありがとうございました…あ、待って…これ少ないですけど皆さんでお茶でもしてください……」

ワタシが差し出したポチ袋を恐縮そうに見て、はにかんだ青年。
引っ越し業者らしくポロシャツから太い二の腕を剥き出しにして両手で受け取った。

【さて…やりますか……】

季節は春…。
ワタシは前職を退職して新しい会社に中途入社すべく、それまで住んでいた街を離れ、わりと遠くへ越してきた。
理由はヘッドハンティングなんて格好のいいものじゃない。
所謂、一身上の都合というやつだ。

不動産屋さんによると、この地域は1LDKの物件が極端に少ないらしい。
あまり選り好みはできなかったが職場から近すぎず遠すぎず、あとそんなに新しくはないが美築、地下鉄の駅からも徒歩圏内ということで即決した。

心配なのは1LDKから4LDKまでの複合型マンション、即ち独身からそうじゃない家族までが暮らしているということだ。
これまではレディースマンションだった。
近所付き合いなんてものがあるとは思えないが、いろいろとトラブルには巻き込まれないようにと思っていた。

夕方、大方の荷物整理を終わらせると近所のショッピングモールに買い物に出掛けた。
車のないワタシにはこのショッピングモールが生命線となりそうだ。
どこでも品揃えに大差はないが耳に入ってくる人の声や会話のイントネーションが違うと、知らない町に来たんだと新鮮に思える。
そんなことを思いながら両隣と真上と真下の部屋への引っ越し挨拶の粗品を購入した。

【まぁ、定番だけどタオルが無難だよね……】

なぜかその夜はお蕎麦を食べた。

翌日。
上と下の階は同じ1LDK、下はワタシと同じ独り暮らしの男性、上は若い男女が同棲をしていた。

向かって右隣は老夫婦が住んでいる2LDKだった。
白髪の婦人が丁寧に粗品を受け取ってくれた。
ご主人は留守らしい。
その夫は公務員だったらしく既に定年退職をしていて年金生活だと聞いてもないのに教えてくれた。
ワタシは愛想笑いをしながら頭を下げる。
まだ挨拶が残っていますので…と退散した。

【流石公務員、やはり民間の退職金、年金とは違うということか……】

私の部屋を通りすぎて最後の部屋に向かっていった。

ルームナンバーの横に、来栖と表札が出ていた。

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