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Dear.M ~例えばこんな風に貴女を壊す~
第1章 出会い
左隣は留守だった。
玄関前のエントランスポーチに補助輪付きの小さな自転車がおいてあった。

【青い自転車…男の子のいる夫婦か……】

もう一度インターフォンを鳴らしても応答がなかった。

【出直すしかないかな……】

踵を返そうとした時、後ろから声をかけられた。

「あのぉ…うちに何かご用ですか?……」

【へぇ…美人さんだ……】

ダークブラウンのセミロングのストレート。
切れ長の目にすっと通った鼻筋、薄い唇。
ワタシより少し歳上らしい女性は素っぴんかと思うほどに薄化粧。
地が白いのだろう…綺麗な肌をしたお姉さんといった感じ。
オフホワイトのカットソーにダメージのスキニーデニム…カットソーはフロントだけインしていてスタイルの良さを自覚した着こなしだった。
不意に現れたスレンダー美人にワタシはときめいてしまう。

【センスいいなぁ…服の趣味からはSっぽいけど…どうだか?……】

ワタシは瞬時に観察していた。

「すみません…ワタシ昨日隣に越して来ました黒川天音です…ご迷惑をかけないよう気をつけますの、でこれからよろしくお願いいたします……あのこれ、つまらない物ですがお受け取りください……」

彼女の頬が綻んだ。

「わぁ、管理人さんから聞いています…わざわざご丁寧にありがとうございます……うちだってまだ小さな息子が二人もいて騒々しいんですよ……あ、でもこのマンションわりと防音はしっかりしてるので大丈夫かなって思います……こちらこそ、私は来栖美海、よろしくお願いしますね……」

【二人も…見えないなぁ……それに感じのいいひと……タイプだなぁ……】

引っ越し挨拶のタオルの箱を受け取る手…左の薬指には指輪がある。
大きなトートバッグを肩に担いで沢山の食材が入っていて、大袋のロールパンが覗いていた。

【コストコ行ってきたんだ…幸せなんだろうな……ワタシとなんて…あるわけないか……】

「すみません…お買い物帰りに……じゃあ、ワタシはこれで失礼しますので……」

「ぁぁ、ぜんぜん…あっちのお隣はご年配だから…何かあったらいつでも訪ねてきてね……力仕事ならうちの旦那貸すからね……」

【うん、やっぱりいいひと…よかった……】

「ほんとですか?…ありがとうございます……心強いです……」

頭を下げると笑顔で部屋に戻っていく。

これが彼女との最初の出会いだった。
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